経営が描く「理想」を、運営の「生命力」で実装する
昨日のコラムでは、『スイステナブル2030』という羅針盤が、いかに経営の舵取りに不可欠であるかを説きました。しかし、経営がどれほど緻密なサステナビリティの設計図を描いたとしても、そこに命を吹き込むのは現場の運営(operation)に他なりません。経営を「意志」とするならば、運営は「鼓動」です。そのいずれの経験を有する私は、折々に上がる『優位性がどちらにあるのか?』、の問いに、それは愚問に過ぎないとの考えでいます。
今回は、経営視点との対比から見えてくる、人的資本を基軸とした「これからの運営の在り方」について私見を綴ってまいります。
「戦略」としての経営、「体現」としての運営
経営の役割が「持続可能な仕組み」創りに主点をおくならば、運営の役割はその仕組みをゲストの感動へと「変換」することにあります。 例えば、環境に配慮したアメニティの導入。最終的には経営決断ですが、その背景にあるストーリーを語り、ゲストに不便さではなく「選ぶ誇り」を感じさせるのは、現場に立つスタッフが放つ言葉であり、まなざしです。
ここに従事する「人」を単なるリソース(資源)としてではなく、価値を増幅させる「資本」として捉え直すべきだと、私は考えてきました。経営が用意した舞台の上で、スタッフがどれだけ自律的に且つ愉しさをかもす振る舞いができるか。この「個の輝き」こそが、マニュアル化できないホスピタリティの真髄ではないでしょうか。
「効率」の経営と、「感性」の運営
経営は、時に「数字」や「効率」で世界を切り取ります。組織を維持するためにそれは大変重要な視点ですが、運営の現場にまでその論理を押し付けすぎてはいないか、と感じることは少なくありません。 真の『持続可能な運営』とは、スタッフから「感性」を奪わないことだと私は思います。目の前のゲストが何を求めているかを感じ取り一歩踏み出す。その瞬間の判断にこそ、人的資本の成長が宿るのです。
スタッフを「管理」の対象にするのではなく、職場や地域の魅力を発信する「クリエイター」として再定義すること。運営側が彼らの感性を信じて「余白」を担保したとき、ホスピタリティは単なる作業から、ゲストとの「心の交換」へと昇華するのです。
2030年へ向けて、私たちが目指す景色
デジタル化の荒波が押し寄せる2030年、経営の効率化は極限まで進んでいくでしょう。
だからこそ、運営の在り方はより「人間臭い」ものへと回帰していくのではないかと考えています。
経営が持続可能性という「器」を作り、運営=「人」がそこに温かな血を通わせる。 スタッフが自らの仕事に誇りを持ち、成長を実感しながらゲストを迎え入れる。この両輪が円滑に回り、初めて、観光立国が目指す持続可能な社会は、単なる理想論を超えて、私たちの日常を照らす光になると信じています。
「人は、人でしか癒やされない」
経営という理知的な視点を持てば持つほど、私はこの泥臭くも愛おしい運営の真理に立ち返らざるを得ないのです。
そして、その視点に立ったとき、経営視座は一段高みを増していくように実感しています。

