ドイツ菓子を極めるマイスター

ひと回り、私よりも年下の彼女。だが、その風貌風格は、抱いた夢を形にしていく漲る意志をその横顔にたたえている。野心家ではない。目標をさだめ怯むことなく進む真の勇者の姿だ。彼女の名は佳子さん。現在、スイス人の夫、子供たちと共にスイスに住んでいる。夏はハイキング、冬はスキー愛好家に親しまれる山岳リゾートの5星ホテル。ホテル内ミシュラン2星レストランでデセール監修、チームの一員としてその偉才を放っている。家庭で見せる母性溢れる優しさと、プロフェッショナリズムに向き合う熱い眼差し。いづれもが彼女そのものである。青森県出身。ご親戚の多くが林檎生産者さん。幼少時代、収穫期には決まって祖母の傍らで手伝いをするのが年中行事でもあった。そう、「林檎」が生活にある環境で育ったのだ。”変化””改革”とはほぼ無縁な日常生活が大半の世の中。ましてや、先祖代々から続く農家さんには一年のルーテインは伝統の如く繋がれている。現状を把握しつつ現況を改革する視点を持つ彼女に、『林檎』は運命を定める宝物であったのかもしれない。落下などで傷ついた林檎は市場出荷を見送られる。それらはジュースやジャムなど加工品とするのが一般的な在り方。それを目の当たりにするたびに、慈しみ育てた林檎を「従来加工とは異なる形で商売へと繋げられないものか」その視点に立ったのだ。彼女の発想は規格外とされる林檎のみならず、その生産者さんの新規事業貢献へも繋がるものである。その思いは徐々に高まり募っていく。或る日、ふと目にしたNHK「ドイツ語講座」”週末などに家庭で作られる素朴なケーキを皆で囲み憩う” ドイツ慣習のひとつが紹介されていた。そして精工に確立された”職人養成”システムAusbildugを番組を通して知ることとなる。何かに射抜かれた彼女は、瞬時にして「ドイツへ行く」との信念の祖がそこで芽生えた。若干15~16歳の時である。華やかなケーキではなく、お母さんが家で焼くような素朴な菓子、そこに林檎を活かした菓子作りを学びたい、その思いは日増しに強まり、規格外となった林檎の再生したい、その想いと重なり合っていくのであった。

「ドイツで学びたい」、それはドイツ語修得に留まらない。ドイツ文化、ドイツそのものへの興味へと繋がっていくものであった。当時、ドイツとのコネクションなど皆無な彼女。「夢を叶えるには、ずっと、ここ(青森)に居てはダメだ」と思い、”ドイツ言語文化学科”をもつ富山大学へと進学を決める。学業の傍ら、様々なアルバイトを経験する他、「起業塾」に参加。出会った人々に「自分のやりたいことを話し伝える」この姿勢を貫いていった。すると、思いもしないところでドイツへの伝手と出逢う事になる。アルバイト先の常連さんがドイツとのコネクションを持っていたのだ。それは後に彼女のドイツ生活を明確なものとしていくのである。常連さんから繋がる人脈で、大学在学中、休みにはドイツで夏期講習に参加。卒業後、ドイツのAusbildungいわゆる職業訓練校へ入学。その後にマイスターシューレにて学びドイツ国家認定の菓子職人マイスター称号を取得。最初の就職先にフランスとの国境にも近いSaarlandの三ツ星レストランで一歩を刻むことになる。16歳で抱いた夢を実現していく。その工程には様々な苦闘もあったこと想像に難くない。それらをひとつひとつクリアにしていく行動力は、「逃げない、怯まない、挫けない」並々ならぬ覚悟の上に存するものであろう。そして彼女は、運命の糸に手繰り寄せられるが如く、この三つ星レストランにて生涯の伴侶であり同志でもあるドミニクと出逢うことになる。スイス人のドミニク。彼もまたフレンチシェフ修行のためこのレストランに居た。やがてドミニクは、故郷スイスの名門ホテル「グランドホテル・ドルダーグランド」へ移ることになる。時を経て、2人は結婚し彼女もまたドミニクが働く「ドルダーグランド」にて菓子職人第2章を迎えるのであった。

【自分の夢を見据える。夢のために今自分が為すべきことに邁進する】

① 菓子職人になる、決心したとき、幾つかの日本の製菓学校も回った。然しながら、彼女と同等の信念やら思いを共有する人々には出逢えなかった。4年間の大学生活でドイツ文化を習得し、その後で「ドイツへ渡る」、と10代とは思えぬ壮大なスケールの計画を立てる。

② ひたむきな思いが呼び込んだ偶然の出逢いからドイツ行きが叶う。夢の第一歩を刻む「夢が形となっていく工程』限られた資金の中でメリハリをつけ、ドイツ菓子道をひたむきに歩み続けた。環境が異なろうと、「怯まず、逃げ出さず、諦めず」彼女が抱く「好き」と同時に、凡人とは異なるメンタリタリテイのつよさ。他者との比較は無意味。自身がどう在りたいか?そこが大きなキーとなっている。
大学在学中から、様々なアルバイトを経験する傍ら、自ら「起業塾」に参加。そこで、自分の夢を言葉にして他者へ発信することの大切さを学ぶ。発信することで受信のアンテナも拡がり、自らと賛同する仲間が増えていく。そして、自身の決意も揺るがぬものになっていく。

これらは、その後からスイス国内で粛々とお菓子に向き合ってきた人生道へ続く。。。

Yoshiko監修 みつばのジェラートをメインに、日本の香りと四季を描く美しいヒトサラ。キルシュ(さくらんぼ)と日本香のマリアージュ。これに合わせて小ぶりなスフレも供されました。温かでほわほわのスフレはシンプルだがテクニックと調整を要する一品。時代を経ても変わらぬ安定のデザートだ。それとこの革新的なデセールを合わす、さすが、グランデセールの粋を感じる。アヴァンデセールには赤紫蘇ソルベ、
今宵の宴を体現するミリャヌデイーズ これまでのお料理を邪魔しない、逆に惹きたてる小さな宝石だ。 細やかな心遣いも彼女ならではの感性が鳴り響いている。