ルツエルン湖を見下ろす山頂にたたずむ150年余りの歴史伝統をもつホテル【ビュルゲンシュトック・リゾート】。
2017年、およそ5億スイスフラン(約570億円)以上の巨額投資を経て、時代に即した国際サミットやウエルネスの目的地として、劇的な再生を遂げた。その背景には、カタール政府系ファンド(QIA)傘下「カタラ・ホスピタリテイ」による完全買収がある。

ビュルゲンシュトックに限らず、ベルン【シュヴァイツァーホフ】、ローザンヌ【ロイヤル・サヴォイ】など、スイスのホスピタリテイを象徴する老舗名門ホテルが相次いで中東をはじめとする海外資本の傘下に入っている。

かつて「ホテルアカデミーの最高峰」であり、世界のラグジュアリーの基準を作ってきた誇り高きスイスに、なぜこれほどまでに外貨が流入しているのか? そしてその『真意』はどこにあるのか? 先般のマネジメントヘッドインタビューと併せて、調査分析する中でひとつの見解に辿り着いた。

「ホスピタリテイ資本経営」を提唱する立場の私は、この現象をただ単に『老舗の身売り』ではなく、【伝統的無形資産】×【グローバル有形資本】が高度合流した戦略的パートナーシップである。。。。。と。その3つの視点として、

1:【富の保存】としてのスイスブランドの価値
中東のソブリン・ウエルス・ファンド(政府系ファンド)の本質的なミッションは、化石燃料依存からの脱却と、次世代のための『永続的な富の保存』にある。彼らが投資先に選ぶのは、一過性のトレンドではなく、100年経っても色褪せない『唯一無二の絶対的な価値』にある。スイスが誇る悠久の自然、地政学的な安定性、そして数世紀にわたり磨かれてきた『スイス・ホスピタリテイ』というブランド。これらは、世界で最も安全且つリターンが高く見込まれる『オルタナテイブ投資』とも言える。彼らはスイスを買い叩いているのではなく、スイスがもつ『有形無形資本』を評価し、それらを自らのポートフォリオに組み込んでいるに過ぎない。

2:【ハード(不動産)】と【ソフト(人)】役割分担の明確化
スイスの伝統的ホテル経営(多くは同族経営)の最大のボトルネックは、ハイエンドラグジュアリー顧客が求める「超巨大なインフラ投資」と「デジタル化」に対する資金力不足である。ビュルゲンシュトックが体現したように、中東資本は「圧倒的な財務基盤」を提供し、歴史的建造物の復元や最先端スパ(1万平米におよぶアルパイン・スパなど)建設といったハードの役割を完璧に担い遂行する。一方で、実際のオペレーションやゲストとの関係性構築といった「ソフト」の領域は、スイスの伝統的な職人技とホスピタリテイに委ねられている。2年前、ビュルゲンシュトックのトップにツエルマットのホテル一家出身でシェフからキャリアをスタートさせたスイス人、クリス・K・フランゼン氏が就任したことはその象徴であろう。資本はカタール、しかしその資本をドライブさせる「ホスピタリテイ資本(人的資産)」の核はスイスのDNA. 中東在任歴の長く双方の文化を現場から体得した同氏が就任したことは、この館な新たなる始まりの一歩なのかもしれない。そして、この役割分担こそが「真意」なのではないだろうか。

3:【サービス】から【ロンジェヴィテイ(ウエルエイジング】への付加価値転換
海外資本の流入は、スイスのビジネスモデルをも進化させている。「至高のサービスと美しい景色」を提供するホテルから、リゾート内に最先端の医療・ウエルネスを組み込んだ「ヴァルトホテル」を新設。「富裕層の健康寿命(Longevity)に投資する目的地」へとホテルそのものをプラットホーム化しているのだ。これには膨大な初期投資が必要であり、グローバル資本のバックアップなしには成し得なかった変革ではないだろうか。


スイスの現況から、
外貨が入ることを「文化の切り売り」と恐れる必要はなく、本当に恐れるべきは、【自国のもつ「ホスピタリテイという無形資本」の本当の価値を、自分達で言語化できず、安売りしてしまうこと】

強大なハード資本に対して、私たちは「人の価値」「おもてなしの構造(人的資本)」というソフトで対等に渡り合い、それをレバレッジにして企業価値を高めることができる。スイスのラグジュアリー市場の変遷は、まさにそれを私たちに教示している。

皆さまの組織では、目に見えない「ホスピタリテイ資本」を、グローバル競争の中でどう位置付けていますか?



ルツエルン湖を見渡わたすテラスでのランチ。
観光客ではなく、スイス国内のゲストが大半なのも、このホテルが掲げる戦略を垣間見る一瞬でもある。

階下のラウンジではアフタヌーンテイ。
フロアから立ち上がるセッテイングは初めて