持続可能な付加価値を提供するホスピタリテイの本質

昨年末、関西日本スイス協会より拝命した講演「スイス・ホスピタリティの源流と変遷、観光立国とは?」において、多くのビジネスリーダーや有識者の皆様を前に、これからのサービス産業が拠って立つべき「資本」のあり方について提言いたしました。
長い歴史の中で磨き上げてきたスイスホスピタリティの本質は、単なる接客技術の集積ではありません。
自然、文化、そして人間という「ホスピタリティ資本」を毀損させることなく、いかにして高い経済的付加価値へと変換し続けるかという、極めて戦略的な経営思想に基づいた在り方です。その現代における高度な到達点が、2021年のコロナパンデミックを機にスイスが国を挙げて推進する戦略「Swisstainable(スイスティナブル)」です。

ホスピタリティ事業、あるいは対人サービスを軸とするあらゆる業種において、持続可能性はもはや倫理的義務ではなく、無形資産への「再投資」という経営課題そのものでしょう。
Swisstainableの論理的特異点は、
先ず、乱立するサステナブル認証を独自に体系化し、事業者の習熟度に応じた三段階の「メタ認証」として統合したことにあります。これにより、消費者の認知負荷を下げると同時に、スイスという国全体を「良質な資本が循環する巨大なプラットフォーム」へと昇華させ、強力なブランド・プレミアムを構築することに成功しました。

また、ビジネスモデルの観点においては、「Stay Longer, Delve Deeper」という指針を掲げることで、短期消費型の観光から脱却し、顧客の滞在深度を高める戦略を採択しています。
これはオペレーションの回転数を競うのではなく、顧客一人あたりの体験価値を最大化することで、集客コストを抑制しながら収益性と顧客満足度を同時に引き上げる、極めて合理的な経営判断を軸としています。他方、学術的にもこのアプローチは環境負荷という外部不経済を、シームレスで質の高い移動体験や滞在価値へと内部化させる「リジェネラティブ」なシステム設計として高く評価されています。

行動経済学的な視点においても、Swisstainableは「不便を伴うエコ」を「洗練された贅沢」へと再定義されています。地産地消の食文化や公共交通網の利用が、消費者にとって最もスマートで快適な選択となるように『サービスデザイン』されており、顧客は心理的な報酬を感じながら自発的に持続可能な行動を選択することになるのです。こうした「情緒と論理の融合」こそが、深刻な労働力不足に直面するホスピタリティ業界において、自社の事業が社会の再生に直結しているという大義を明確にし、優秀な人的資本を惹きつける源泉にも繋がっていきます。

講演の際にも強調いたしましたが、真の観光立国とは、資源をただ消費するのではなく、資源を投資して価値を増幅させる国であること。。スイス・ホスピタリティの変遷を辿れば、それは常に「外貨を獲得するための手段」から「国や地域のアイデンティティを資本として育む手段」へと進化しています。私たちがスイスから学ぶことは、『財務資本』だけではなく、自然・文化・社会関係資本を経営の主要な軸に据える『ホスピタリティ資本経営』への転換、と私は考えております。

Swisstainableが示すのは、目に見えないホスピタリティという資本を、いかにして持続可能な利益と社会の豊かさに変えていくかという問いへの、一つの完成された解を提示しています。この変革の潮流を自社の事業戦略にどう組み込み、ステークホルダーや次世代へ繋がる付加価値を創造していくか。昨年末の講演で得た確信をもとに、これからのホスピタリティ資本経営のあり方を探究して参ります。


本コラムのベースとなった講演内容の詳細や、ホスピタリティ資本経営のフレームワーク構築、またSwisstainableのモデルを応用した自社ブランドの再定義に関するご相談も承っております。本質的な価値創造を志す皆様からのお問い合わせを、心よりお待ちしております。