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ツーリズム・観光
Historic Hotels in Switzerland 視察/取材(2023年7月)
長いこと日本のクラシックホテルに従事し改革を先導した経緯、また若き頃のスイス生活の中で『ホテリエ道』を進む起点となったホテル。悠久の歴史絵巻に彩られ数多の人々の足跡とともに現代を生きるホテル文化および事業(産業)ホテルリサーチャーとして、そのヒストリックホテルの幾つかを5回に渡りご紹介してまいります。また、新興勢力による新たな観光賦活開発事例も視察取材に基づいた視点でご紹介いたします。
先ずは【スイス・ヒストリック・ホテルズ】の概要を解説いたします。
日本では『クラシックホテル』と呼称されますが、欧米に於いては大方『ヒストリックホテル』と称され顕在化されています。『Swiss Historic Hotels』もそのひとつであり、スイス連邦の首都ベルンに事務局を構え協会団体として、加盟ホテルとの連携をもって広報営業活動を国内外へ発信、またその価値向上と普及、連携強化策など統括しています。趣向に満ちた様々な宿泊施設が揃うスイスには、中世の修道院、古城、または療養施設などを復原したもの、また家族経営によりその伝統と歴史を連綿と守り運営されるホテルなど、多様な文化が息づいております。いずれも長い歳月をかけて、その土地で育まれてきたホスピタリテイを現代にまで広く伝承しており、スイス観光の主要産業であり、貴重な歴史遺産でもあります。
雄大なスイスアルプス、緑の絨毯を敷き詰めたかのような牧草地、キラキラと太陽の光に戯れる湖、麗しき光景の中で受け継がれてきたホテルホスピタリテイ文化。後期バロック様式の瀟洒なゲストハウス、ベルエポック時代を物語るグランドホテルなど、ここだからこそ出逢える唯一無二の存在感を放つ各ホテル。ICOMOSにより”保護文化財”に認定されているホテルも少なくありません。
『歴史資産』としてその価値を継承しながらも、『宿泊施設』としての快適性を担保するための修繕改修、また『人的資本』として人財育成に弛みない務めを果たされています。『懐古と革新』の協調は時間をかけて成熟され、訪れる者に『忘れじのホテル時間』を齎してくれます。
一方、その価値をハードいわゆる『建物』にのみ言及せず、ソフト・ヒューマンに焦点を充てていることも特筆に値され、歴史の中で育まれてきた伝統のホスピタリテイを各ホテルが紡ぎ出すことこそ大切なエレメントである、と考えらえています。それぞれのホテルあるいは宿に相応しいホスピタリテイの在り方に加え、グローバルスタンダードに沿ったスキル研鑽も重要視され、その基幹設計に第三者的立場から関わり貴重なスイス文化の一翼を担う役割を協会は担っています。
下記は「スイス・ヒストリック・ホテルズ」加盟基準として規約に記されている条件です。
【Swiss Historic Hotel選考基準】
① 築30年以上の建物であること
② 永年をかけて培われたホスピタリテイがあること
③ 建築の文化財価値と歴史的な雰囲気
④ 往時の建築に基づく客室や内装の改装
⑤ 保存することを尊重した構造変更・改修
参照:スイスヒストリックホテルズ規約より(日本語訳)
①については、ハードルが低く設定されているようにもとれますが、②人財関連および伝統継承(料理レシピ、サーヴィスなど人が創り出すもの)は、日本に於いても各ホテルにより濃淡のでるところでしょう。前職時代、某美術館とのコラボ企画時に創業当時のメニューレシピが無い、記録もないで苦心しました。④についても判断基準が厳しいですね。
スイスを含めた欧州基準のそれは総体的に厳しいものと考えられます。
歴史観の中に現代の快適性を作り、その上で上記基準を満たすことが条件。世界遺産の諮問機関であるICOMOS選定ホテルが多くあることも頷ける要因です。
ヒストリックホテルの本質、エシカルな価値は『歴史をかけて紡がれ伝承されている人の粋』が成し得るのではないでしょうか。