フルサービスシテイホテル」と「リゾートホテル」で求められるもの

冒頭から「地方」と書いたが、地方といっても種々様々。ここで言う地方とは「首都圏以外」とご理解ください。

私のホテリエ道、始まりは故郷である名古屋。政令指定都市であるこの市を地方と呼ぶにはやや違和感はある。が、まあ、そこは良しとして。 
名古屋市のど真ん中”中区”に生まれ、中学3年生になるまで都会っ子であった私には、名古屋観光ホテル、ナゴヤキャッスル(当時)は日常の生活にあるホテルでもあった。キャリアスタートは名古屋観光ホテル接遇部ロビーサービス課(いわゆるベルガール)。
当時、名古屋では屈指の名門ホテルと謳われ賑わいを呈するホテルロビーを、グレーのワンピースに赤いリボンのユニフォームを着て縦横無尽に歩き回っていた。兎にも角にもお客様との触れ合いスタッフ皆との交わりが楽しく、定時を過ぎでも居残ってはドア横に立ってお客様のお出迎えをしていた。名門の名に相応しく、皇室、各国元首、政財界他セレブリテイの皆さまをお迎えし接遇する機会はは少なくなかった。粗削りの20代半ば、経験豊富な課長S女史から教えを頂いたセレブリテイゲスト対応の「いろは」。時に厳しく細細に至るまでしっかりと教育を授けてくださった。その種子は、云十年を経たホテル日航福岡にて大きな花を咲かせてくれることになった。

九州その①【ホテル日航福岡】

赴任からまだ歳月も浅い頃、今上天皇(当時の浩宮徳仁皇太子殿下)ご行啓に際して大役を仰せつかったのだ。当時の総支配人、ホテル社長等首脳幹部より当該行啓の「おいま」担当者として私を推挙をいただいた。得難い恵与に足は震えるも、嬉しさと身を正す責任感に芽生えたこと今でも鮮明に憶えている。ファミリーヒストリーならぬ3代まで遡る系譜図の提出も求められた。テレビ番組で当事者が感涙に咽ぶ気持ち、よく分かる。このような機会でもなければ知らないで通り過ぎた自身のルーツ。しみじみとするよ。
任務では、社内外での関係者との打合せ、東宮大夫、皇宮警察の方々との細やかな打合せなど貴重な場面に同席、ホテリエの幸せ感に俄かな誇りを重ねていった。皇太子殿下(当時)ご出立時、ホテル社長、総支配人、総料理長、FB責任者、ソムリエ担当者と横一列にならび、皇太子殿下から一人ずつお言葉を賜わったこと、あまりの神々しさに声がうわずり、何と申し上げあたのか記憶が飛んでいる。 栄誉ある任務を前にして、シテイホテルならではの各セクション精鋭が団結して一つの宴を創る在り方をここで学んだ。

九州その② 【雲仙観光ホテル】

雲仙観光ホテルでは、キャロライン・ケネディ駐日大使(当時)ご夫妻のお迎え恵与に預かった。本国帰任前に私的来訪くださったのだ。 光栄にも場面場面に於いて暫しの会話をする機会にも恵まれた。当初、在日アメリカ大使館から問い合わせを頂いたとき、まさに心臓が飛び出そうになる思いとはこのこと、驚愕におののいた。『キャロライン・ケネデイ大使自らが、何処かからホテルの話をお聴きになり「訪問したい」と望まれた』と伺った。加えて、私的訪問ゆえに過剰な警備対応は控えて欲しい旨も併せて伝えられた。それは貸切などの対応策を取る必要はない、を意味するものである。私的とは言えホテルとしてはSVIP対応要であることに相違はない。慇懃無礼ではない礼節をもちエレガントにノーブルに接遇する。この時も、それまでの経験が至る所で活かされ役立つことになった。
「キャロラインさんのような女性になりたい!」
出自が名門であることと、品格知性が比例するとは限らない。キャロラインさんは一目御目文字の瞬間から射抜かれた。品性と知性に輝く自然体な美しさを生来よりお持ちなのであろう。ホテルご出立ののち、ケネデイ大使ご夫妻に宛てて”サンキューレター”をしたため雲仙郵便局のポストへと投函した。 幾日かを経て、まさか、まさか、キャロライン元大使から直筆のご返事を頂くことになろうとは想像だにせず。。。。。感激も有頂天の感動。その後も、サンクスギビングデーにはアメリカの代表的なチョコレート「ギラデリ」BOXをお届けくださった。セレブリテイ、大使といった肩書だけでは計れない真のヒューマニテイを熱く感じ入った。
セレブリテイであり大使であるお方、一方でいち地方ホテル総支配人な私。その後も繋がる糸を紡いでくれたのは、紛れもない「ホテル時間」であったと実感している。
リゾートホテルはお客様との接地面、接する時間が長い分、ひとりひとりのポテンシャル、士気、協調性が重要素となる。いわゆるマニュアルでは通らない人間力が肝要となってくるのだ。
『ホテルは、人と人、人と文化、人と自然の交差点』、私はこの言葉をよく用いていた。「ホテル」が舞台となって、つながる刻と縁はホテリエだからこそ、彩に富む豊かな人生の一頁でもある。


地方ホテルで働く、<遣り甲斐は自ら創り出す>


セレブリテイ接遇に関しては、首都圏域とは異なりほぼご宿泊が伴うケースが少なくない。上述の通り、ご滞在時間が長くなればその接地面はおのずと広くなり、卓越したプロトコール力、エンターテイメント性、柔軟性がシテイホテルのどれらよりも幅が広くなっていく。見方を変えれば、挑み拓いていく志を持つ人には数多の経験機会に溢れているとも言える。自ら考え、行動し、ホテリエとして、いや、人として『誰かのために』を創造するチャンスは周囲に点在している。それに気が付く感性とアンテナ。これはセレブリテイに言及されず、お運びくださるすべてのお客様との関係性が成熟し、忘れじの『ホテル時間』創造チャンスは地方にこそあるのかも。
どちらが良い悪いではなく、地方のホテルにも自らの意志を確固とすれば経験という財産に出会える機会は枚挙に暇がない、体験者として、それを伝えたい。