昨今、『○○ガチャ』という言葉を耳にすること少なくない。何を示唆するのか掴めず、ネット検索して調べてみた。
回答は次のようである。
『自分にコントロールできない要素』で人生が決まることを意味する俗語』 例として国ガチャ、親ガチャ、先生ガチャ、等々、まあ、挙げれば枚挙にいとまがないほどに。

今朝の情報番組『配属ガチャ』を特集していた。何でもこの春入社したばかりの社員が”配属ガチャ”を理由に退職したことを主題に採りあげていた。えっ、今日はまだ19日じゃない?土日入れれば10日間ほどしか出勤していないじゃないか。そう思った私は甘かった。いやいや、10日間ではない、3日目に退職届提出だそうな。真実話を前提として見聞きしている中で、組織社会で働くベースが少しずつ崩壊しているような感を覚えた。勿論、大学で研鑽を積んだ学びを活かし職務に就きたい気持ちは分かる。職務経験を重ね自身のスキルアップを図っていくことに、ライフプランの重要度を据えている事も理解できる。どちらかと言うと、私も新人類に近い考え方をもつ人間であるので、自己研鑽の時間を重ねたい志には大いに賛同だ。
でもね、ちょっと待て。つい先日まで学生の経験値しか持たない者が、社会人のいろはを習得する前に自己実現に固執して土台創りを疎かにする、少なからずその傾向は否めなくはないか? 

昨年、ある講座で、大学教員でありキャリアコンサルタントの方がお話なさっていた。
『今の学生は内定取得以降もネクストの企業をリサーチしている』全員がそうではないが、研究室の話題になるくらいなので、稀有な事例ではないだろう。その源も、自己実現のキャリアパスを最優先に考えているからと聞き及んだ。
そんな話を聞いたら、企業の人財開発担当は企業成長に於ける人材開発ではなく、個人のスキルアップ開発に主眼を置いた対応策を講じることになるのか。いずれ去っていく新入社員に。。。

スイスホテルマネージメントスクール時代、
わたくしはPGDコース(既に自国などで学位取得OR社会人経験が5年以上ある者)そこで学んだ。
世界各国から参集するクラスメイト。国により教育システムも異なるが、中には自国大学院でMBA取得済みのメイトも在籍していた。ホテル産業の知見を深めるための入学である彼女は、シラバスにある『理論』と『実践』の実践に対して否定的な言動を取っていた。ある時、先生(教授)と喧嘩腰になり挙句にはステップダウンしていった。

かく言うわたくしも、なぜに今更そんなことをしなければならないのか。。。と、ブツブツ言っていたのは事実である。
ハウスキーピング、レストランサーヴィス、キッチン(料理人としての実践)、それらプラクテイスと呼称される授業が、マーケテイング概論、HRリサーチ、レベニューマネジメント、MICEマネジメントなどセオリー授業と同じく組み入れられているのだ。
□ハウスキーピングでは、シーツ剥ぎからベッドメイクを仕上げる時間測定、掃除の手順や商材について
□レストランでは、朝食サーヴィス、フランス料理フルサーヴィス、食器の扱い方、カトラリーの磨き上げなど
□キッチンでは、コミパート(冷製担当)からデセールまで一通り、コック服を着て行う
早朝から夜まで、理論と実践に追い立てられクタクタ。

帰国し、ホテリエとして仕事をするようになり、その一見『何で今更そんなことを、無駄な時間だ。。。』と思っていた一つ一つが、ホテリエとして生きていく自信の源になっていること、それに気が付いた。『理論』を熟知していても、実践のいろはを知らないではホテリエとしてチーム協働はできない。各セクションの仕事を理解することは、殊に総支配人にとっては最重要点の一画と思っている。現場の総力があって『ホテル』稼業は成立している。『人』無くして、回るのであればそれはもはや『ホテル』とは呼べないだろう。『宿泊所』『飲食所』ではないだろうか。ホテルまたは旅館は、各現場の知識実践が最終産物となり”ホスピタリテイ”の調べとなりお客様に届けられる。いわばトータルプロデュースの傑作だ。
ホテルスクールでは、レストランサーヴィス&キッチンのレクチャーを受けた。スクールと言えど、実践は実際の現場そのものであり上っ面な向き合い方では単位取得できなかった。未だかつてホテル職時代にレストラン部署配属されたこともなければ、仕事に就いた事はない。だが、彼らの仕事のシークエンス、デイリーDUTYなどを理解したうえで各セクション間との調整が適ったのは、実践での得難い経験があったからである。

この年齢になって思うことは、道程の上に無駄な経験はひとつも無い、と言うこと。
自分が描いた夢だけを追い求め、自分にとっては無駄と思う機会を自ら放棄する事は、後に振り返った時に、
既に取り返しのつかない後悔になっているかもしれないよ。

マーケテイング&ブランデイングの学問を学びに来ているのに、レストランサーヴィスやらコックさんの訓練は、その後、私が希求し実際に成し遂げた『ホテルブランデイング&マーケPR』の根幹、支柱となっていった。あの経験が私に多面的な捉え方と理解する大切さを教えてくれたのだ。

『石の上にも三年』この深い意味を知るのは、ずっと大人になった時だ。
”配属ガチャ” ガチャと思うか、自己実現途上にある多彩な経験と考えて臨むか。
『人となり』の分岐点なんだろうな。

小さな始まりが、やがて魅了する桜花の舞となっていく。意味のない事はないんだよ。