2023年の私を体現するに最も近しい言葉、レリジエンス。
レリジエンスとは、時折「折れない心」と表されているのを見かけるが、本意は「再起力・復元力」を示す言葉である。
そこに「しなやかに」と、枕詞を冠する表しを学ぶ本年でもあった。
ちょうど1年前、暗闇の中に居た私は東京都主催「セカンドキャリア塾」の案内を偶然に目にした。応募条件について読み進めると、都内在住もしくは都内に勤務する者、応募年齢下限ギリギリ。最年少なんてこの歳になると滅多に出くわさない珍現象。ワーグナー”さまよえるオランダ人”ならぬ、マルガリ”さまよえる都内人”の私。これは偶然ではなく必然、と直感的にポチっと申込クリックする。それも応募締め切り前日のことだ。募集人員60名、平日夜間コースと土曜日コースに各30名。志望動機をしたためる。これがいわゆる書類選考。面接のご案内をいただきそれに臨んだのは2022年12月19日。忘れもしない。寒い北風が吹く師走の新宿、面接を受けるなど長らくご無沙汰の私はいささか緊張の面持ちで足取りも軽くはなかった。男性、女性2名ペアの面接官。
「あの有名なホテルの総支配人をなさっていらしたのですよね。」
「素晴らしご経歴で、引く手あまたではないですか」
過分な賛美を浴びながらも荒んだ心には直球として響かない。寧ろ皮肉なもので「美辞麗句ではないか」、と素直さを歪ませてしまっう。まあ、それほどまでに私の心は荒れ果てていた。人間不信一歩手前、すべての事に拒絶反応を示していたのかと思う。
直感であれ自らの意志でこの機会に応募した。それは「今の自分は自分ではない」→「私らしくない」→「変わりたい」、枯渇する心の片隅に湧き上がる小さな源泉が在ることの証左でもあった。
年明け2023年1月10日12時合格発表。HP画面上に受験番号が掲出されるのだ。「落ちても悔いはないや。。。」と臨んだものの、やはり合否の知らせに鼓動は高まる。ドキドキしながら画面を開き幸運なことに自分の番号を見つけたのだ。ちょうど知人との会食で大阪の某ホテルに居た私は、ロビーの端っこでひとり感涙に咽いだ。嬉しかった。暗闇から抜けだす一筋の光を見る思いは「希望」への道行に満たされていった。後日談では合格率3倍?5倍?であったとのこと。更には当初希望通り土曜日コースに入塾もかない、新たな一歩を踏み出した2023年1月睦月のはじまり。
土曜日コースは、履修期間が2か月間。その分、1日の履修単位数が多い。土曜日は毎朝6時起き、7時半に自宅を出て日本橋のクラスまで通った。1限目スタートの9時から昼食を挟み帰途に就くのは17時頃。ほぼ全日を講義に充てる週末だ。
そこでは、①これまでの各自人生の振り返り、ライフカーブを描き会社での役割と個人の出来事(結婚やら子供、病気をした、親の介護など)を重ね合わせ、自身が辿ってきた道程を再度見詰め直す ②経験を重ねたシニア世代だからこその社会との関わり方 ③マンダラチャートなどを用いた分析型自己実現の可視化、このような実践的な講義は講師のは話を聴くに留まらない。グループワークを講じながら他者を知り、他者を尊重し、他者との共感性を高めていく有用的な講座であった。ずっとホテル業界の中に居ると人間関係もほぼ固まった集団の中に在る。が、ここでは多種多様な業種で経験を積んでこられた方々と、掲げる目標(第二の人生の生き方)を同じくして学ぶ機会を得られた。そして、回を追うにつれ、皆な一様にして、あらゆる山坂を越えて来たんだなあ、と他者に思い入ることで自身の事をも俯瞰的に回想している事に気が付く。
その講座の中の一つに、「レリジエンス~しなやかに回復する力~」90分講義があった。
直近の実体験も重なり、先生の仰る一言一言が魔法の呪文の如く、私の心を縛る縄を解いていってくださったように思う。予期せぬことに遭遇した時の心の状態から”しなやかに”回復していく工程。それをセオリーと同時に実践的に教え授けてくださった。
社会的デイスアドヴァンテージ、困難なことにぶつかったとき、しなやかに回復する力は、認知行動療法と理性感情行動療法の理論をベースに構成されている。□変えられない状況を受け容れる □現実的な目標を立てそれに向かって進む □不利な状況であっても決断し行動する □希望的な見通しを維持し、良いことを期待し希望を視覚化する 等、職業の別は関係なく、人の心理に直結する非常に興味が深まる分野の学びをいただいた。卒塾以降、自身の講演、研修の場に於いてこの話を題材として引用している。そして更にその探究に目覚め行動心理学の学びに繋がっている。これはホテリエとしても大きな糧を授けられた思いだ。人と人、人と文化、人と自然が繋がり醸し創造されるホテル時間、そこには必ず人が介在する。その人の言動、心遣いによりホテル時間の色彩は多様な在り方を示すものだ。”しなやかに” この形容詞が示唆するように、自分軸を堅持しながらも、しなやかに人と接し、人の想いに寄り添い、「誰かの幸せのために」しなやかに行動する、そんなホスピタリテイパーソンでありたい。
どん底と思えば「底」にいるまで。今がどん底なら何をやってもプラスになるよね、と希望を持つ。
そして、あらためて私は周囲の人々に活かされて、支えられて生きていることを実感する。どん底にいる私に声をかけ、抜け出す手を差し伸べてくれる。利他の精神に触れた時、希望はしなやかな光を帯びて再起する原動力になってくれた。
ありがとうの輪
無事に卒塾し学位記なみの卒塾証をいただきました。そこには全講義を通してマネージメントに関わってくださった担当者さんの直筆メモが添えてありました。人に活力を与える人はレリジエンスを知る人だろう。一つの扉が閉まるとき、新しい扉が開かれた、そのすべてに感謝。
