12月11日~21日まで、およそ8年振りに冬季スイスを再訪した。
10日間という短期間ではありましたが、待降節第2週から3週への時期と重なり、マーケットに代表される艶やかなクリスマス色、一方で宗教行事としてのそれは趣の異なる温かで静謐な欧州の伝統クリスマス。紡がれる伝統と人々の暮らしの中で五感をゆらし過ごす『2023年12月スイスの街角から』4週にわたり連載して参ります。
今回の旅程は、東京→ドーハ経由→チューリヒ
第一日目:Rheinfelden(ラインフェルデン)
チューリヒクローテン空港到着。既にオンライン購入済みSBBチケットを手に空港地下にある【Zuerich Flughafen】*チューリヒ国際空港駅へ。1時間に1本のRegional Zug(急行)、Basel行きに乗車する。Wi-FiはSBBサイトから入りショートメールに届くナンバーを入れて使用可。海外プランに入っていない限り、大方の人は通信を機内モードに据え置いているのでSMSは届きようがないと思うのだが。ちなみにエアポート内はフリーWi-Fiが飛んでいる。Facebook,メッセンジャー、Lineなどの機能もアクテイブです。
急行バーゼル中央駅行、終点ひとつ手前、【ラインフェルデン】に降り立つ。所要時間50分間ほど。冬のスイスは日暮れが早い。冬特有の立ち込めるグレーの雲、氷点下にいたる気温も手伝って、あっという間に漆黒の夜へと誘われる気分。みぞれがポツポツと降り出した。まるで山の天気の如く、目まぐるしく天候が変わるのだ。 かつて両親と共に住んだ街。大まかな地図は頭の中にインプットされている。暗がりの中、2019年後半にオープンしたゲストハウスへと向かう。元ロンドン・ヒルトンホテリエの夫婦一家が営む宿。デイナーはない。朝食のみを提供するいわゆるB&Bだ。彼らと8年振りの再会!! 前回は、この場所ではなく、自宅を改装し3室のみを提供する、何でしょう、民宿でもない、とは言え民泊でもない、バスルームひとつを3室のゲストが共同で使用。朝食はそれこそお家に招かれたような家庭の朝。友人の家にでも泊まっているようなフレンドリーな時間。そんな宿であった。我が父の話によると、その時ひとりのドイツ人医師が宿泊しており2日目の朝食時に声を掛け少し話をしたそうだ。小さいがゆえに家族的な雰囲気が醸され、いつしか知らない者同士が言葉を交わす日常が創り上げられていくのであろう。
夫のアンソニーはロンドンっ子、妻のナタリーはラインフェルデン出身のスイス人。二人の男の子が居て、当時4歳であった可愛らしい坊やも今やスマホをいじる12歳。歳月人を待たず。日本アニメが大好きで夢は日本へ行く事!お土産に持参したお煎餅を大層喜んでくれた。嬉しいな。
コロナの喧騒直前、自宅宿を閉鎖し駅近の現在のところで新規に8室+朝食ルーム兼コミュニテイーサロンを設えた【Ambrosia Guest House】をオープンさせた。滞在翌朝、アンソニーと(途中からナタリーも参入)3時間近く話をする中で、彼らが考えるホスピタリテイの在り方、これからのツーリズム社会形成のコアにあるLocalizationへの取り組み、そして機運というものが実現化への重要素であり、その機運をもたらすのも日頃の在り方如何により天の計らいが顕著となること、話を聞きながら実感する。実例のひとつとして、上述の我が父が会話を楽しんだドイツ人医師、2人が組織から独立、開業した従前ゲストハウスの【THE FIRST GUEST(CUSTOMER)】最初のゲストであったこと話してくれた。その医師は1年間もの長期滞在、それこそ彼等の家から職場へ通っていたとのこと。なぜか?
ラインフェルデンはライン河を讃える畔にあり、クアハウス(リハビリテーション等を行う施設、健康センター)、アルトハイム(特別養護老人ホーム)が点在する街でもある。大都会バーゼルにも近く自然豊かな郊外の街は【療養、静養】に相応しい環境が整っている。新たなリハビリテーションセンターの開業に伴い、その準備とスタッフトレーニング任務のためそのドイツ人医師は1年間のロングステイゲストであったとアンソニーは話してくれた。彼自らは任するも彼の紹介で、医療関係者の宿泊(1か月間など長期型)は元より、口伝えの波及効果でバーゼル等で開催される学会、展示会などの関係者宿泊問い合わせが相次いだ。そうなってくると、3室かつ家族同居然とした在り方にも変化が必要となってくる。ちょうどそんな折に、ラインフェルデン駅周辺の再開発PJの話が舞い込んだ。6階建てビルデイングを3棟建設、その1棟に宿泊施設を誘致したいと考えていたオーナー会社と合意形成したのだ。それが現在へと繋がっている。ナタリーパパも仰っていたが『彼らは幸運だったよ』そうね、幸運であったことに違いない。絶妙なタイミングだ。そして私は思う。そのタイミングを捕らえたのはそれまでの彼らのマインドが為したものと。アームレングスを保守し、小さなプロパテイから始め顧客満足度を向上させていった。そのコツコツ積み上げが機運となり届けられたのかと痛く納得したものだ。
ナタリーの父は、元ヒルトンマン、欧州内ヒルトングループHR総統括責任者。インテリアデザインはヒルトンでの現場感覚を持つナタリーが担当し、宿泊施設開業に際しての庶務実務(総務畑)は、彼女の父が大きな加勢をしてくれた、と二人は振り返りながら話してくれた。元FBマンのアンソニーは朝食はもとより、市内飲食店とのコラボレーション開拓担務、宿泊客への夕食(外食、出前含め)ハウスキーピングの取り纏めなどオペレーションを担い、一方では新規事業開拓をプランニングにも着手。ちょうど私がステイした数週間前に第2号を旧市街にオープンさせた。担い手のいなくなった築云百年の古民家を買い取り、6室のゲストハウスへとリノベーション。この滞在中にも問い合わせの電話を彼は受けていた。
アンブローシアゲストハウスのチェックインは17時、アウトは10時30分。朝食希望者は前日までに伝える。その他、滞在中はコーヒー、冷蔵庫の中のお水他、無料で提供されるものがいくつか。ゲストは好きな時に好きにダイニングルームを使用して良い。マイクロウエーブも使用できるため、簡単な冷食を買ってきてチンして食べるのもOK。この時間帯のIN/OUTには理由がある。彼らには子供がいる。お昼間は何かと学校行事含め子供に向き合う時間が肝要だ。そして、ハウスキーピングなどの担い手もコミュニテイの皆さんと分かち合い仕事分担を講じている。それぞれが無理なく永続的な関係性を築く運営手法なのだ。家族と向き合い、ステイゲストと向き合い、地域と向き合う。そのいずれにも手抜きなどはなく、自然体で暖かく迎え入れ見送りをする。その日常を創造している。
彼らと話していて、『コロナで人類の在り方は変わった。いや、変わらなくてはならないことを教えてくれた。これからの時代はコンペテイションではなく、コラボレーションの時代』『ホスピタリテイ業界も、それぞれの人に合わせたカスタムメイド、パーソナルタッチが大切』 ホテル、レストランなどそこで携わっている人に会いに来る、そう、ファン作りが大切で『ファンになってもらいたい』と思う時に、心の通い合いがなければ永続的な関係性は築けないということ。ホテルは顧客体験価値がヴァリューとなり、施設の大小などハードに傾注せず、本質のラグジュアリーを体感していくものかと思う。ホテルの人とゲストが繋がっていく、ゲストとゲストが繋がっていく、ホテルとコミュニテイが紡がれていく。
彼らのアントレプレナー精神と揺るぎない【ホスピタリテイ・ビジネス】への挑戦に大きな果報をもらった気持ちだ。
ナタリーは早速に私をラインフェルデン観光局に繋いでくれた。かつては私もこの市の市民。『おかえり』と声をかけていただき嬉しかったように、これからの観光ビジネスのコアに『人』を繋ぐ、そんな在り方を踏襲していこう。初心回帰と新たな芽生え、何ともエキサイテイング初日であった。


