誰にでも想い出の味がある。食卓を潤し、家族、友等との語らいに寄り添う忘れられない味わい。
Grand Hotel Les Trois Roisにある「Les Brasserie」には、私の想いでを飾る人、食、空間が連綿と紡がれている。

刎頸の友ケイちゃんと共に、クリスマスアドヴェントで賑わうこのレストランを訪ねた。このホテルには連続ミシュランに輝く著名なfフレンチレストラン「Cheval Blanc」が在る。特別な一夜をいずれのレストランで過ごすか、少しばかり頭を悩ませるも私の意を決定づけたのは「逢いたい人に会いに行く」「想い出の味わいに再会」、そんなシンプルなものだった。
慶ちゃんともコロナ禍越しの再会、想い出の場所で懐かしい話に花を咲かせながら、これからの未来を賑やかに語り合う、それにはうってつけの場所でもある。

アドヴェント週末、予約は完全FULL状況。レセプショニストがレストラン担当者と掛け合ってくれた。
条件付き「18:00~20:00の2時間枠ですが差し支えないですか?」
「十分です。まったく問題ないですよ」
私の返答にちょっと戸惑った顔をする彼女。んん?? それで良いよ!と言っているのになぜに戸惑う、と言うか驚いた表情。
これも食文化習慣の違いを如実に表す現象、と、ちょっとしてから気が付いた。
そう、欧州では19時、20時からお夕食開始も少なくない。アペロで食前時間を楽しみダイニングへ入るのが概ねその辺りの時間になるのだ。そして宴は延々と続く。。。ましてや週末金曜日の夜。20時で終了はやや奇異な感覚を覚えたのでしょう。

18:00、ル・ブラッセリ―へ。いきなり「こんばんは」と日本語で挨拶を受ける。
ここでまた一瞬の驚き。どう見てもスイス人。イントネーション美しい日本語がまたその驚きに拍車をかける。
日本語を学びに来日、3年間の滞在経験があるとのこと。なんでかね、たった3年間でもっとも難しい言語のひとつ「日本語」を習得する能力ってどこからくるの?

ほどなく案内されたテーブルに座ると同時に、メートルさん登場。由緒あるレストランのメートルさんは居ずまいから別格だ。
背中に物差しをいれているのか?と思うほどに背筋はピンとされ、腕、手、指の所作すべてが美しい。ご年配の風貌ではあるが、その重ねられた経験値が彼を纏うオーラとなっていて紳士然とされた姿勢だが慇懃無礼ではなくユーモアに富んでいる。
サーヴィスパーソンの所作が美しい、はその後にやってくる料理への期待値が上がる。

表題の「クレープ・シュゼット」and「ビーフ・タルタル」
これらはここのシグナチャーメニューだ。予約要、その日の状況にもよるがメートルによるプレゼンテーションもある。
2名様以上の括りもある。
「慶ちゃん、デセールどうする?」
「クレープ・シュゼットをいただきたいのだけれど、まるちゃんはどう?」
「えっ、良かったよ。私もクレープ・シュゼットが食べたいと思っていたから」
そう、われわれのメインはクレープ・シュゼットであったのだ。
そうなるとコースメニューの選択しは自ずと外れる。

さて、オードブル、メイン、デセール、カフェとアラカルトからそれぞれにコンビネーションしオーダーをする。
実のところ、このようなオーダーはコースメニューよりも高価になる場合が多い。案の定、コース料金を遥かに超えるびっくりびっくりプライス。それでも、逢いたい人に会い、味わいたい想い出に再会できること、プライスレスな時間は「とっておき」のものだ。
格付け、☆、評価などはあくまでも指標にしか過ぎない。本物の価値は自分軸で見つけるもの。

Youtubeにも登場のフランシスさんにも再会できた。彼はもう30年以上このホテルでサーヴィスの仕事に就いている。いぶし銀だ。
そりゃ若い人のような軽快な動きからは遠ざかっているかも知れない。だが、彼がもつ宝物はもっともっと深く熱く貴いもの。
フランシスさんが居るとパッと周囲が華やぐ。朗らかな空気に満たされてゆく。ホテリエの矜持を持ち、グルーミングから姿勢まで完全なホテルマン、グランドホテルには不可欠の語りべでもある。作られた所作ではなく、永年を通して培われた品位芳しい一挙手一投足。ゲストとの会話にも自然に輪を繋げていくのは、天賦の才と経験から得られた引き出しの豊富さ。
多くの人々と出逢い、会話をし、そんなリアルな体験が日を重ねるごとに深みを増し、自然体なサーヴィスパーソンへと成しているように思う。

「フランシスさん、貴方に会いに来たのよ。貴方のクレープシュゼットをいただきたくて今夜来たの」

逢いたいギャルソンがいる。シェフがいる。ホテリエがいる。味わいたい逸品がある。
マスの時代ではなく「個の選択」時代を生きる今、何につけても「ユニークネス」これが支持される価値観かと思う。

ところで、我々は2時間で退散??
いやいや、2時間延長の22時まで。
ゆっくりとほっこりと美味し逸品を味わいながら、語り尽くせぬ宵を過ごしたのでした(笑)

ここに在る御仁 フランシスさん。彼が居ることに喜びの価値がある。永年の経験がなせる人間味あるホスピタリテイ。紳士然としながら慇懃無礼さが微塵もない。ユーモアたっぷり。この写真を見て彼のプロフェッショナリズムを知った。私に決して触れていない。包み込むような仕草をしながらもプロトコールを得ている。さずがだ!フランシスさんでしか出せぬ色彩に誰しもが微笑み返しをしている。Merci!
ホテルを代表するデセール。また、逢いに行こう。
オルテン在住の慶ちゃん。バーゼルまで来てくれました。コロナ禍を経て数年振りの再会に歓喜。
グランドホテルはキャンドルも炎です。当り前だと思うが、そうでないことも間々見かける。
本質に出会えた時の喜びは虚飾の美など駆逐するからね