お出迎えの挨拶は「おかえりなさいませ」「ただいま」記憶に寄り添うもてなしに、日常の寛ぎを憶える 
幾たびとなく心が帰する静謐な佇まい そう、ここは我が故郷』

『華やかなりし時代の記憶を、柔らかな陽光が現世に照らし出づる
社交界の気品に五感を揺らし 大切なあなたと過ごすかけがえのない時間』


『ノスタルジア、幾星霜を重ねる不朽の空間 心酔の美酒
訪れる客人の足跡は 麗しき歴史の一頁へ永遠に刻まれてゆく』



これら3キャプションは、BS-TBS「ザ・ベストホテルクラシカル」プロデューサーSさんより、「総支配人、書いてみませんか?」とのご提案をいただきしたためたものだ。1時間番組の1幕エンド、2幕中盤、3幕エンドに映像と音楽とともにナレーションされた。
真冬に4日間をかけて撮影収録された。当初の趣意書には『ホテル総支配人』としてナビゲーター役割のみであった。が、時間を重ね、皆さまと共に語らい笑い考えていく中で、初見香盤表とは異なるものになっていった。令和の大改装中でホテルオペレーションは休館中。その中での撮影は『良い面』と『そうではない面』を如実に表すことにもなる。時間制限なく撮影に集中できること◎、一方でお客様不在の空間は、人と人の交わりが醸し出す『ホテル時間』の美徳が希薄であると私には感じられた。
クルーの皆さまとは撮影時のみならず、一緒にお食事をとり、種々様々に和気藹々と幅広い会話を重ねていった。
「総支配人、彼みたいな人を仲間に入れたいでしょう?」
「えっ、どうしてお分かりなるの?」
素直であり向上心があり細やか。けれども、YESマンではない。ましてや面従腹背には無縁の彼は、広報委託先の担当者。いわゆる社外の人。基本的に良いものを創っていく思いが強く、なおざりな半端さがなかった。素直だがYESマンではない、というのもそういうところに表れている。私が最も信頼を寄せられるタイプのひとりだ。きちんと考えを発し伝えられる、それができる人であった。
Sプロデューサーさん曰く
「お二人の信頼関係はホンモノ、そう映るよ」
唐突にも、
「総支配人のピアノ演奏シーンを入れましょう」
「えっ、アドリブですか?」
「いや、真面目な話・・・」
「...ひえ~、スコア取り寄せますので、ちょっと待ってくださいね」

かくして、私の演奏シーン、加えてシェフのクッキングシーン、など次々にホテリエ(人)がホテルに在る趣を創り上げていかれた。
当初の「歴史的建造物のホテル」主題は、いつしか、その中で「ホテル時間」を創出する「ヒューマン」に焦点がシフトしていった。急遽出演となったホテリエ皆な心臓バクバクであったであろう。想定外のことを目の当たりにして当り前だとは思うが、よく向き合ってくれた。作品もアカデミックな香りのする素晴らしいものになり、それぞれに良き想い出の頁となっていれば嬉しい限り。「香り」の消えたホテルに「ホテルの人」を介在させることで躍動的な「ホテル時間」を描いてくださった。制作しながら臨機応変に取組み、より感動力のある作品を創られる人々。このような機知に富んだ出逢いに射抜かれる私。

制作の皆さま帰京後、数日が経過した頃、その広報担当の君から電話が入る。
「チーフプロデューサーさんが、3か所のキャプションを総支配人自らにしたためてもらってはどうだろうか、と打診されています」キャプション挿入の場面、インプレッションの方向、文字数など付属情報と共に、彼はちょっと興奮した声調で伝えてきた。
そして力強く、
「わたしは、総支配人が書かれるのがいいと思います!」
「プロデューサーさん、4日間で総支配人の人となりを見ていらっしゃったのですよ」
と、ちょっとばかり歯の浮くような話をしてくれた。
「そう。。。 じゃあ、チャレンジしてみようかな」
4日間の会話の中で、物書きが好きであることは一言も話に挙げていない。編集の段階になって、フッと何かが閃かれたそうだ。
話を受けて早速にポエムを綴る。幾つかの言葉とイメ―ジを擦り合わせながら。不思議なことに、この3キャプションを書き上げるに1時間をも要しなかった。4日間、ひとつの目標へ向かい一緒に濃密に関わり合っていた時間が、私の感性と筆を円滑に進めてくれたのであろう。
「故郷はコキョウではなく、ふるさと」「現世はゲンセではなく、うつしよ」「永遠はエイエンではなく、とわ」
読み方まで注釈まで記し書き上げて渡す。もはや、偉そう(笑)
「Sさん、偉そうにすみません。。。」
「いやいや、思った通りだ(笑)初めて総支配人みたいな総支配人に出会ったよ」
「??? 総支配人みたいな総支配人?」言葉遊びを繰り返しながら、何ともほのぼのとしたクリエイター感性に自身のアンテナが微ビビとくるのを覚えた。

お蔭様をもちまして、この放映を機に多くのお客様がお運びくださることになる。
「観ましたよ」と、お電話もいただいたり、思わぬ反響に「発信」の影響力を改めて深く知った。

ひとつ困ったのは、、、、「ピアノ、弾いていただけませんか?」のリクエスト。
ここの総支配人はいつもピアノを弾いている印象が根付いたのだろう。それから猛練習したこと、言うまでもない。

プロデュースと一言では語り尽くせない、その極意。止まることを知らない深淵をつく洞察力と眼力。
人生の機微を豊富に体験されているがゆえの色彩、すべてに感服した。
この四日間の経験が、「想像する」「創造する」そして、まだ見ぬ誰かへと届ける、人間だからこそかなう縁の紡ぎ。
愛おしい循環を授けてくれた。

お出迎え/お見送りのシーン